本論文では,過去5年間の『教育心理学研究』に掲載された特別支援教育に関連する論文を中心に,心理学にみられる障害観を考察し,インクルーシブ教育に向けた教育心理学の課題を述べた。特別支援教育をテーマとする近年の教育心理学研究は,(1)アセスメント,(2)困難が生じる心理プロセスの解明,(3)カウンセリング,(4)介入プログラムの実施と効果検証に分類された。心理学研究においては,問題と関連する説明力の高い個人の内的な安定的特性として障害(あるいは特別支援の対象となる特性)を扱っており,実証主義的方法論に基づく個人モデル的な障害観であることが示唆された。障害は心理学における心のモデルや研究方法と関係しており,心理学的な状況や環境に埋め込まれたものであって,特定の個人に由来するわけではないことを指摘した。排除されないインクルーシブ教育において,状況や場に着目する学習理論,研究者の三人称性,研究者自身の差別という課題と向き合う必要性がある。