2018年に林産物として初めて岩手木炭,続いて浄法寺漆が地理的表示保護制度へ登録されている。いずれも生産地は概ね岩手県内であり,両者の地理的な条件は類似しているが,申請に際しての動機,論理の構築,直面した課題が異なる。類似した地理的条件下での産物の比較は,欧州と比較して歴史が浅い日本の地理的表示保護制度の知見と可能性を理解する題材となりうる。本稿では農産物とは異なる様相を呈する林産物領域における地理的表示の最新の展開と状況を報告し,同制度の特性である「保存・伝承」と「経済性」の二面性を分析する。具体的には岩手木炭と浄法寺漆の登録の過程と暫定的効果について調査を実施した。結果,申請要件となる産地・土地との結びつきと伝統性について,正当性を構築するための論理,根拠についての相違点と共通点が明らかとなった。同時に,登録の二種類の動機(保存・伝承,経済性)が各林産物ごとに混在しつつも双方の目的を担った地理的表示活用を目指していることが示唆された。