本稿の課題は,乖離しているようにみえる森林・林業問題と山村問題が,山村住民の視点からみたときどのような関係になっているのかを明らかにすることである。事例として,木材生産の効率化や環境配慮型の森林経営に取り組みつつ,地域と結びついた森林利用を展開してきた米川生産森林組合を取り上げた。分析視角として,森林経営者であり山村住民でもあるA参事の視点から,経営の効率化,環境対応,森林体験活動がそれぞれどのように意味付けられているのかについて地域との関係に注目して分析した。その結果,(1)森林・林業問題と山村問題は,森林経営にかかわる山村住民の視点からもそれぞれ異なるものとして認識されていること,(2)しかし山村振興における森林の意味が失われてしまうことなく,地域に対する愛郷心を育んだり,地域の魅力を伝えたりする場としての意味が与えられていることが明らかになった。特に,地域の課題を住民の意識面の変容から捉え,それとの関わりで森林利用のあり方を考えている点が,こうした森林の意味を醸成している重要な要因であろう。