大脳皮質が損なわれ意識がなくても、その皮質下の脳内情報中継基地としての視床や各種の核といった箇所からの下行性伝達情報は心臓にも反映している。そこで、重篤状態で終末期を迎えた患者で、生命が燃え尽きる寸前に一時的に高まる生命反応を分析するため、それぞれ特殊性を有する4 つの「バランス指数」を用いて、各々の角度から、これを通常の睡眠REM 期の夢みる状態や全身麻酔中の無意識状態を分析した場合と比較し検討してみた。まず、その測定分析法として、自然界の ‘1/f ゆらぎ音波’ が我々の体内にあるゆらぎ現象に同期すると ‘こころ’ が癒され ‘心地よい気分’ になるという音響学的理論をヒントに、脳中枢から心臓へ伝達されている情報に注目し、そこで生命そのものである心臓の ‘心拍リズムのゆらぎ変動’ に隠された情動因子を検出し ‘こころ’ の面を分析することを考えた。その目的で、小型メモリー心拍計で1 ms という微細な時間単位で検出したゆらぎの時系列数値データをパソコンに取り込み、一定のソフトによる1/f-like spectrum analysis 法によってエクセル化した時系列数値を一定の手順で処理し、生命調節力を示す指標としての4 つの「バランス指数」を算出した。その結果、従来からの交感、副交感神経機能とい う2つの指標でみた反応では不明確であったが、この4つのバランス指数の中の一つSV-Bal-I(Sympatho-Vagal-Balance index)値が死直前になると急激に高まり、同時に情動反応を意味するAs-Bal-I(All-spectrum-band-Balance index)値もSV-Bal-I 値の上昇をしばしば急激に大きく上回り、情動反応が大いに高まっていることを示すものと考えられた。また、この現象が睡眠REM 期の夢現象によく似た反応であること、このAs-Bal-I 値が1.5 以下でかつ低目のSV-Bal-I 値を示していた場合は平穏な終末を迎えたこと、他方SV-Bal-I 値も高くかつAs-Bal-I 値が2.0 以上と高まっていたものは、何らかの苦痛を伴う幻想を抱いての終末だった可能性が推測された。この様に、「バランス指数」は錐体外路系情報をも含む幅広い脳中枢全体からの情報を分析するための有意義な指標となると考えられた。