目的: 「復職ガイダンス2017」は,Evidence-based Medicineの手順でエビデンスの質を評価し,無作為化比較試験(RCT)のシステマティックレビューの結果から推奨を提示した,わが国最初の産業保健ガイダンスである.各介入のシステマティックレビュー,推奨の各論については各論で詳述する予定であり,本稿では作成方法を中心とした概論を報告する. 対象と方法: 透明性の高いガイダンス作成グループの編成,レビュークエスチョン(RQ)の公募と選定など,先に公開された,「科学的根拠に基づく産業保健ガイダンスの作成方法」に沿って作成された.6つのRQに対し,Cochrane Library・PubMed・医中誌Webの3つの文献データベースを用いて,既存のシステマティックレビューの検索式を一部改訂して2016年1月時点の文献検索を行った.選定基準に沿って採用論文を選定し,GRADEアプローチを用いてエビデンスの質を評価し,RQ2と4はメタアナリシス,RQ5,6は定性的システマティックレビューを行った.費用対効果についても定性的レビューを行い,コスト・資源など我が国における実行可能性を慎重に検討して推奨を作成した. 結果: 網羅的文献検索の結果,RQ2 11件,RQ4 4件,RQ5 コホート研究1件,RQ6 3件(うち,コホート研究2)を選定した.休職者に対するリワークなど復職支援プログラムは,中等度のエビデンスに基づく強い推奨(筋骨格系障害),弱い推奨(メンタルヘルス不調)であった(RQ2).RQ4では,産業保健活動として主治医など臨床のスタッフと連携することは,低いエビデンスに基づいて弱く推奨された.RQ5はソーシャルサポートの有用性について検討したコホート研が1件だったことから,推奨としては提示せずBest practice statementとして上司・同僚の介入を提案した.復職時に就業上の配慮に関するRQ6は,低いエビデンスに基づいて弱く推奨された. 考察と結論: 病気欠勤か病気休職かを問わず4週間以上の私傷病による休職者に対して,休職中の介入が早期復職など就業上のアウトカムの向上させることがシステマティックレビューの結果から明らかとなった.我が国の産業保健に関するエビデンスは限られているが,多くの産業保健職が科学的根拠に基づく透明性の高いガイダンス作成方法を習得し,その作成過程で文献検索,エビデンスの評価を行い,我が国で優先的に行われるべき研究課題を明確にすることに現状では大きな意義があると考えている.