目的: インドネシア共和国の労働衛生に関する制度および専門職育成に関する情報をもとに,日本企業の同国における適切な労働衛生体制の在り方を検討すること. 対象と方法: 梶木らが開発した情報収集チェックリストを用いて情報収集を行った.調査の対象として,文献およびウェブサイトとともに,現地事業場2社,医療・保健を担当する中央行政機関,海外で日本企業の支援を行っている日本の独立行政法人,専門産業医養成カリキュラムを設置する現地教育機関を訪問して情報を聴取した. 結果: インドネシアにおける労働衛生行政は労働省(Ministry of Manpower)と保健省(Ministry of Health)の2つの省庁が管掌している.労働衛生に関する法令については,労働安全衛生に関する法律(Act No.1 on Safety)を基本法令として,医療・保健専門職の配置に関する法令,健康診断および事後措置に関する法令,職業関連性疾患の報告を義務付ける法令,労働衛生サービス機関について定めている法令など少なくとも40以上の法令を確認した.しかし,活動の概要のみで,詳細を定めていない法令も存在した.労働衛生を担う専門人材としては,医師(産業医)と安全管理者(Safety Officer)の2つの職種があり,そのうち特に高い専門性を有する産業医が存在することを確認した.また,国家社会保障制度法に基づき,2014年より新しい医療保険制度が,2017年より労災補償制度が施行されている. 考察: インドネシアにおいては,安全衛生に関する法令は存在するものの,詳細まで定められていないことや実施すべき専門人材の質にばらつきが大きいという課題がある.質の高い産業保健活動を行うためには,日本企業の本社の立場から,積極的に専門性の高い人材を雇用するように勧奨したり,育成機関との連携を促したりするなどの対応が必要と考えられる.