太平洋島嶼国では、途上国に共通する母子保健や感染性疾患などの伝統的保健課題に加え、肥満や糖尿病などの非感染性疾患(Noncommunicable diseases: NCDs)の増加が深刻な問題となっている。同地域では、非感染性疾患による死亡が80%を占め、特に70歳未満の早期死亡の増加が懸念されていることに加え、NCDs対策にかかる費用が政府財政を圧迫していることも指摘されており、NCDs対策に耐えうる保健システム強化も喫緊課題である。しかし太平洋島嶼国のNCDsの現状については、その統計も含め、日本の国際保健医療協力において取り上げられることはまだ少ない。そこで本稿は、世界的なNCDsの現状と世界保健機関(World Health Organization: WHO)による取組みを踏まえて、太平洋島嶼国のNCDsの現状と取組みを包括的に解説した。同地域を示す呼称として本稿では「太平洋島嶼国」を採用し、日本の二国間協力の対象となっている10ヵ国(サモア、ソロモン、トンガ、バヌアツ、パプアニューギニア、パラオ、フィジー、キリバス、マーシャル、ミクロネシア)を中心に保健指標を活用して疾病構造を確認し、その後、太平洋島嶼国における取組みについて考察した。その結果、太平洋島嶼国におけるNCDs対策はいち早く開始され、かつWHO戦略に呼応するようにして積極的に実施してきたにもかかわらず、NCDs有病状況には改善がみられていない傾向があった。今後、太平洋島嶼国におけるNCDs対策を進めていくためには、地域特有の島嶼性を考慮した十分な現状分析・考察と人材育成、そして地域戦略との十分な整合性に基づいたローカルな成功事例の積み重ねが必要と考えられた。