われわれは,人間の心というものに関して一般的な知識を持ち,それをさまざまな場面で用いている。たとえば,われわれは他人の心を推し量って,その人の振る舞いを予測したり,他人を望み通りに振る舞わせるために,その人の心に働きかけたりするが,こういった営みはすべて,人間の心と振る舞いに関するわれわれの知識に基づいている。これらの知識は,日常心理学(folk psychology)と総称されている。他方,今日では,心理学あるいは認知科学の領域において,人間の心と行動の関係が科学的に研究されている。では,日常心理学は,科学的心理学とどのような関係にあるのだろうか。より限定していえば,科学的心理学は日常心理学を基礎とすることができるのだろうか。本論文では,この問題について考察してみたい。