アカデミアの『新文法』は何ゆえに「新」文法であるのか。2009年の刊行以来、この文法書のもつ新規性は、主にソフトの文法、すなわち個々の文法理論とその記述の中に求められてきた。本稿は、「文法」のハードの面に着目し、『新文法』をアカデミア史の中に位置付けながら、その本義を見極めたい。 『新文法』の記述性は極めて高いが、それは、スペイン語の多様な変種の記述において際立っている。現代のアカデミアがその理念として掲げる “unidad en la diversidad” は、今世紀の一連の著作に通底するものだが、歴史を眺めればこれも『新文法』の新しさとなろう。しかし、『新文法』に胚胎するもうひとつの unidad として、アカデミアの言語理論の統一を見出すことができる。それは、文法の再整備(正書法、音声学・音韻論の糾合)と語彙学(=辞書)と の一体化による、総合言語論の構築というべき試みである。