エマルションとは水-油のように,互いに混じり合わない2種の液体で,一方が他の液体中に分散しているもののことをいう.互いに混じらない水-油を乳化剤の作用で細かい液滴として分散させる操作を乳化といい,乳化する作用をもつ物質を乳化剤という.同一組成のエマルションにおいては,分散液滴径と液滴径分布がエマルションの諸特性に大きく影響を与える.分散液滴の液滴径が小さく,液滴径分布が狭くなるほどエマルションの安定性が向上する.エマルションの粒子径は通常0.01~100 μ m程度であり,20~200 nm程度の微細な粒子径のエマルションはナノエマルションとよばれている.水-油系エマルションを形成する場合,油滴が水に分散する水中油滴(O/W)型エマルションと,水が油に分散する油中水滴(W/O)型エマルションなどがあげられる.また,水中に分散している油滴がさらに水を内包しているような状態はWater-in-Oil-in-Water(W/O/W)型エマルションといい,これに対して,油中に分散している水滴がさらに油相に分散させた状態をOil-in-Water-in-Oil(O/W/O)型エマルションという.ナノエマルションは食品機能性成分送達システム(FDS)やドラッグデリバリーシステム(DDS)として食品,医薬品,化粧品分野への応用が検討されている.普段摂取した食品は,消化管で様々な消化液と混合し細かく分解され,体内に吸収された後に主として生体膜における生体反応に関与するが,摂食から吸収までの消化過程においては,O/Wエマルション粒子として運搬されている.とくに,吸収直前では,粒子サイズがナノメートル程度のナノエマルションから混合ミセルまで粒子サイズが微細化すると考えられている.混合ミセルへの機能性を有する成分の取込率が高いことを体内吸収性が高いとみなせる.ポリフェノール類やカロテノイド類を含む食品機能性成分は,健康の維持や病気の予防に有効であることが知られているが,その多くは熱,光,酸素などに対して不安定であり,また脂溶性のものが多いため,生体利用性が低いのが現状である.エマルション化することで,脂溶性の食品機能性成分の生体内への吸収性が改善できると知られているが,ここで,近年,食品機能性成分を含有するマイクロ/ナノエマルションの作製法の事例およびその特性評価について紹介する.なお本稿は,Foods & Food Ingredients Journal of Japan(FFIジャーナル)219巻4号312-323頁(2014年)に掲載された原稿を,許可を得て,英訳したものである.