失語症の回復と知的機能の関係について, 平均効果サイズ (以下, d ) を用いた基礎資料の提供を試みた。発症後 3 ヵ月以内に失語症訓練を開始し, 4~6 ヵ月間経過した 196 例について, Ravenʼs Colored Picture Matrices (以下, RCPM) と失語指数との関係を検討した。RCPM 得点別d は 0.3 以上であり, 知的機能低下があっても訓練効果ありという見解を支持した一方で, RCPM 得点が低くなるにつれ到達度に限界のあることも示された。次に, 知的機能低下のある失語症患者 4 例に対する PACE, 認知症のある失語症患者 18 例に対するグループ訓練により, 軽度認知症例は d = 0.5 の改善を認めたが, 中・重度認知症例には認めなかった。ただしコミュニケーションの基盤となる側面に全群とも改善を認めた。 これらはエビデンスとしては脆弱であるが, 我々言語聴覚士が知的機能低下のある失語症患者に行っている, 低めの目標設定, 感情への働きかけといった臨床上の工夫の意義と有効性を間接的に支持すると思われた。