食物繊維は1970年代当初に期待されていたような退行性疾病の万病薬とはならないが,四半世紀の間に生理的役割と疾病予防への応用性が科学的に解明されてきた。1976年での定義は人の小腸で消化されない植物性多糖類とリグニンという単純なものであったが,水溶性・不溶性を分別する化学的測定法の開発と生体への影響が理解されるにしたがい,統一的な定義がされにくい状態になった。食物繊維は,小腸での消化吸収を遅らせ,血糖とインスリン濃度の上昇を緩慢にしたり,脂肪や胆汁酸代謝を介して血液中コレステロール濃度を低下させる。大腸では糞便量を増大させ,通過時間を短縮させるように作用する。大腸内代謝を介して心臓疾患の危険性を低下させることも解明されてきている。現在では,レジスタントスターチや難消化性オリゴ糖など部分的に食物繊維と同様の生理作用を持つ食品部分についての研究も世界的に進行している。食物繊維は考えられている以上に摂る必要があるものであり,これを摂るための新しい食品の開発も望まれる。