1.統計制度論 統計制度論の対象の中で,政府統計事業の事業主体としての統計組織および事業の根拠となる統計法規に焦点をあて,これらに関連する諸研究のサーベイを行ったものである.統計制度が調査統計の基盤として論じられる限りでは,統計制度論はしばしば統計調査論と交錯するが,調査統計のほかにも業務統計あるいはレジスター・ペースの統計を包含した統計制度論の構築の必要がある.統計組織では,総合調整機能と関連して,統計調査体系についてサーベイを行った.統計法規は,戦後の統計2法が制定された経緯を踏まえて,現状ではどのような問題が発生しているかを検討した. 2.統計調査と統計調査論 本章は, 2.1調査客体の変容と統計の課題で, 1985年に統計審議会の答申「統計行政の中長期構想」が整備が急がれると指摘した分野の統計を中心に, 6つの分野を取り上げて,主な業績と統計行政の動向について展望した.これらの分野では,従来の統計調査が前提としてきた調査客体が大きな変容をみせており,また社会・経済の新しい動向が新しい統計の作成を促している.そこにはこれまでと違った統計作成上の困難があり,その解決にはそれなりの工夫が求められる. 2.2統計調査技術の新たな展開では,まず統計関係省庁による統計調査技術に関する研究会の成果について,それらの研究の方向と領域をデータ・リンケージ手法の研究を中心に紹介した.また,レジスターを利用した統計作成における問題点を対象とした論稿も展望した.ついで近年進展が著しい経済活動の多様化・国際化と統計分類の関連に関する業績にも触れた. 2.3調査環境問題と統計の課題で,最近の統計調査の実施困難化の背後にある,プライバシー意識の高揚など統計調査に対する被調査者の潜在的な非協力意識を,非協力実情把握に関わる各種の意識調査の結果の主な傾向と関連する業績を紹介した.最後に,これまであまり利用されていない民間統計の利用可能性と限界についても考察した. 3.統計資料論 データ論の見地から,現行の統計体系と統計資料論のあり方を展望している.特に最近のデ-タ提供の新しい形態であるデータベースの現状についても言及した.