平成7年1月17日未明に起きた阪神大震災は, 災害が単に自然科学的な現象ではなく, すぐれて社会科学的な現象であることを痛感させた。危機管理の観点から我が国の防災を見ると, 今回の震災は, これまでの防災が「被害の予防」を過度に偏重し, 危機管理のもう一つの目的である「被害の極限化」に関して不十分であったことを教えてくれた。地震そのものは防げないが, それによる災害を軽減することは可能である。そのためには社会の側に被害を極小化し, 早期の復旧を可能に出来るだけの備えを必要とする。そのために対策は緊急対策, 応急対策, 復旧・復興対策に分けられ, これら3種類の対策がどれも災害発生直後から独立のグループによって遂行される必要がある。以上の災害対応に関する整理枠組みに則り, 今回の震災事例を通して, 今後社会科学的な検討を行うべき代表的な課題を位置づけることが本稿の目的である。緊急対策では救命救助, 応急対策ではライフラインの復旧と避難所の運営, 復旧・復興対策では心の傷のケアと復興のモデルについて, 今回の震災後の対応を事例として, 検討した。