本研究は, 1982年7月の長崎大水害後の災害復興事業をめぐる利害対立の構造を, 「感度分析」を取り入れたコンフリクト解析 (ゲーム理論の一種) に基づいて検討したものである。具体的には, 第1に, 水害によって損壊した重要文化財眼鏡橋の復元, 及び, 同橋が架かる中島川の治水対策事業をめぐる, 行政組織, 市民団体, 一般市民の3者間の利害対立の構造を, 当事者への面接調査と関連の新聞記事に基づいて, コンフリクト解析によりモデル化し, 均衡解を求めた。第2に, 感度分析を適用することにより, 個々のプレイヤーの選好の変動に対して, 得られた均衡解が安定的であるための制約条件を明らかにした。以上の分析に基づいて, 感度分析が, コンフリクト状況のマクロ構造の特徴を, ミクロ (個々のプレイヤーの選好) -マクロ (均衡解) 関係から評価する有効な方法であることを論じた。最後に, 感度分析の実践的な意義-選好の同定作業の困難の低減 (調査者にとっての利点), 利害対立の解消へ向けた具体的な提言の可能性 (コンフリクトの当事者, 仲裁者にとっての利点) -を指摘した。