本研究では, Moscovici (1976) に基づき, マイナリティが自己犠牲的な行動スタイルをとるか否かによって個人の行動に及ぼす影響にどのような変化が生じるかという問題を検討した。本研究で用いられた要因は, マイナリティの存在 (有無) と行動スタイル (自己犠牲的か否か) の2要因であり, 2×2の要因計画に基づいて実験が行われた。実験では, マジョリティが常に個人にとって反態度的な行動をとる中で, マイナリティは常に個人にとって順態度的な行動をとる状況が設定され, また, マイナリティが支配制度から受け取る物的報酬の多少によって自己犠牲的行動スタイルが操作された。すなわち, 自己犠牲的行動スタイルをとる条件では, マイナリティは物的報酬を少ししか受け取らないまま個人にとって順態度的な行動を一貫してとり続け, これに対して報酬志向的に行動する条件では, マイナリティは個人にとって順態度的な行動を, 多くの物的報酬を受け取りつつ一貫してとり続けた。 実験の結果, マイナリティが自己犠牲的行動スタイルをとる条件では, マジョリティのみの条件に比較して, 個人のとる順態度的行動の割合が高くなることが示された。しかしマイナリティが報酬志向的に行動する条件では, 個人自身が受け取る物的報酬の効果によって個人の順態度的行動が増大することは認められたが, 社会的支持者としてのマイナリティの効果は, 自己犠牲的に行動する場合に比較して, 相対的に低くなる傾向が示されることとなった。以上のことから, マイナリティが社会的支持者として個人に影響を及ぼすためには, 個人にとって順態度的な行動を自己犠牲的に一貫してとり続ける必要のあることが示唆された。また, 行動を決定する際の個人のストレスに関して, マイナリティが存在する場合にストレスがより高く, さらにマイナリティが自己犠牲的行動スタイルをとる場合にもストレスが高いという結果が得られた。これについては, 物的報酬を得るために個人が反態度的行動をとっている場合, マイナリティの存在が行動の正当化を妨げる要因になるためであろうという考察がなされた。また, マイナリティが自己犠牲的行動スタイルをとる場合には, 物的報酬を受け取るか否かの選択が個人に迫られるため, ストレスがさらに高まったのであろうと推測された。ストレスに関する結果は引き続き検討を加える必要があるものの, 今後に興味深い問題を提起した形となった。 以上の結果は, 社会的支持者の状況を含むマイナリティ・インフルエンスの問題において, これまでに多くの研究が行われた“一貫性”の行動スタイルの他に, “献身”の行動スタイルにも注目する必要のあることを示唆している。今後は, “献身”の行動スタイルをとるマイナリティが個人の心理的プロセスに及ぼす影響と, 行動に及ぼす影響との関連を明らかにすることが求められる。