本研究の目的は, 消費者が意思決定をした後, 対象選択肢の属性情報を, どの程度, どのように, 保持しているかを検討することであった。大学生59名を被験者とし, 多肢選択型意思決定課題とそれに後続して予告されていない再生課題を実施した。実験結果から, 決定過程の後期段階において選択肢内処理によって獲得された情報の再生率が高く, また, ネガティブな評価を受けた属性情報は再生率が低いことが認められた。前者の結果は後期段階まで候補として残った選択肢に対する全体的表象形成として解釈され, 後者は前期段階においてネガティブな評価を受けた選択肢が削除されてしまい, 情報の再獲得や注意を受けることがなくなるためであると解釈された。また, 属性情報の保持については, 従来onesidedness効果として報告されていたような, 最終的に選出された選択肢についてだけ保持率が高いのではなく, 2番目によく情報探索を受けた選択肢も再生成績がかなり高いことが明らかになった。この結果は, 意思決定過程における表象形成がone-sidedではなく, むしろ2選択肢分の全体的表象が形成されるのではないかという新しいモデルを示唆するものである。