少数者が多数者に対し影響力をもちうるためには, 少数者の積極的行動とともに, 多数者の “他の見解を自らの見解の代替選択肢として認めることへのレディネス (Ralt) ” が高いことが必要であることを論じ, 多数者のRaltの決定因の1つとしてアウトグループとの関係の要因をとりあげた. Tajfelら (e. g. Tajfel, 1978) によるグループ間関係の理論と北山 (1979) による理論的考察にもとづいて, 次のような仮説をたてた. (1) イングループの多数者の見解に特異性がある時には, イングループの少数者の影響力は小さく, (2) 特異性がない時には, 大きくなるだろう. そして, (3) この特異性の効果は, イングループの先行課題での作品へのアウトグループからの評価が負の時に正の時より大きくなるだろう. イングループの特異性 (高・低) ×アウトグループからの評価 (正・負) の実験の結果, 評価の操作は失敗したと解釈されたが, 特異性に関しては予想通り, イングループの少数者は, 特異性が低い時 (64%) には高い時 (39%) より有意にイングループの代表者として選ばれやすかった. しかし, この結果のみから, 本実験の仮説とそれが基づいている理論的枠組が検証されたと断言するのは性急にすぎるということは言うまでもない. 以後, イングループの特異性が少数者の影響力に及ぼす効果の生起に関与すると指摘されるいくつかの変数を操作した実験を類似のパラダイムのもとで実施することがまず必要であろう. また, 本実験では多数者のRaltの決定因をアウトグループとの関係の要因に求めたが, 他の要因も当然考慮されるべきである (cf. 北山, 1979). 中でも, 特に, グループがどのような “歴史” を経てきているかが, それに引き続く討論における多数者のRaltを決定する (cf. Hamblin, 1958; Kitayama, 1981) という可能性は興味深い. 今後の研究がまたれる.