本研究は対人感情の認知におけるcongruency現象を扱った。個体変数として知覚者のself-esteemをとりあげ, 更に状況変数として知覚者及び他者の社会測定的地位を考慮することにより, congruency・incongruencyの分析を行い, その心理機制の相違を解明することを目的とした。 質問紙法により (1) 対人感情, (2) 他者から寄せられている対人感情の認知, (3) 自己と他者との相対的地位関係の認知及び, (4) self-esteemの程度を測定し, 得られた資料を分析した。結果は次の通りである。 1. 他者に対し好意的感情を抱いている場合に, congruency・incongruencyの生起と最も密接に関連するのは, 知覚者のself-esteemである。すなわち, こうした条件下ではself-esteemの高い者ほどcongruencyの比率が高くなる傾向がある。ただし, 社会測定的地位の低い他者に対しては, self-esteemの関与の仕方が若干異なる。一方, 他者に対し嫌悪的感情を抱いている場合には, congruencyの生起に関し, self-esteemの関与の仕方は不明確である。 2. 他者の社会測定的地位は, 他者に対し好意的感情を抱いている場合も, 嫌悪的感情を抱いている場合も, congruency・incongruencyの生起と有意な関係はない。 3. 他者の知覚された地位は, 他者に対し好意的感情を抱いている場合も, 嫌悪的感情を抱いている場合も, congruency・incongruencyの生起と有意な関連をもっている。しかし, 両条件下での関与の仕方は異なっている。すなわち・好意的感情を抱いている条件では, 他者を自己と同地位に知覚した場合に最もcongruencyの比率が高い。一方嫌悪的感情を抱いている条件下では, 他者の地位を自己より高いと知覚した場合に, 最もcongruencyの比率が高くなる。 4. 知覚者自身の社会測定的地位は, 他者に対し好意的感情を抱いている場合も, 嫌悪的感情を抱いている場合も, congruency・incongruencyを規定する要因である。ただしその規定の強さは両条件下で異る。すなわち, 他者に対し好意的感情を抱いている場合には, 一般に知覚者自身の社会測定的地位が高いほどcongruencyとなりやすい。しかし, この傾向はself-esteemの程度を越えて一貫するほど強固なものではない。一方他者に対し嫌悪的感情を抱いている場合には, 知覚者の社会測定的地位が低いほどcongruencyとなりやすい。 この傾向はself-esteemの程度を越えて一貫する強固な傾向であり, こうした条件下では, 知覚者自身の社会測定的地位が, congruencyの生起を規定する主な要因といえる。 5. 上の1・3・4の事実は, 他者に対し好意的感情を抱いている場合のcongruencyと, 他者に対し嫌悪的感情を抱いている場合のcongruencyとが, 心理機制的に相違するものであることを示唆している。