学級の担任教師が児童の社会構造をどの程度日頃の観察で把握しているだろうかという問題を, 教師に対する調査と児童に対するSociometryの比較から研究してきたのであるが, 得られた結果を概括すると次の如くまとめられる。 (1) 教師は担任学級における人気児童として平均4 名を, 排斥されている児童として3.3名を, また孤立児童として1.8名をあげた。そしてこれを性別についてみれば, 一般に女教師の該当児童を挙げる数が男教師に比し少い。 (2) 学級の児童に対して実施したSociometryの結果からは, 人気児童として平均4.7名が, 排斥されている児童として4.8名が, また孤立児童としては2.8名が抽出された。 (3) Sociometryの信頼度に関しては, 念のため1 月の間隔をおいて実施した3回のものの間で, 1年生においても信頼度係数0.70~0.94, 6年生にあつては 0.90~0.95というように, 従来考えられているものより著しく高いものが見られた。 (4) 教師の観察による評価とSociometryの結果とを比較してみると, 人気児童については教師はかなり正しく観察しているが, 孤立児童についてはほとんど一致が認められず, 教師の著しい見誤りが起つている。排斥されでいる児童に関する教師の観察は人気児童程正しくないが, 孤立児童程誤つていない。このように学級の孤立児童が学友から忘れられ勝ちであると同時に, 教師からも見誤られ勝ちであるということは, Wickman, E. K.(10)(11)(12) 以来「教師が明瞭な非行や攻撃的な態度や学習の進展を阻止するおそれのある行動を重視し, 従順な引込思案的・内閉的な態度や退行的な行動を軽視する」と強調されている傾向と軌を一にするものがあると思う。 (5) 教師の性別, あるいは担任期間のちがいによって, 児童観察の度合が異るであろうと推測されるが, 結果はそれに反しどの教師についても前項の傾向を明瞭にうかがうことができた。 (6) 教師は該当児童としてあげるにも拘らず, Sociometry の結果では非該当の積極的な誤りと, 教師は挙げないのにSociometryの結果からは該当児童としてあがつてくる場合の消極的な誤りとについてみると, 群別では排斥されている児童において消極的過誤の多いことが認められた。又男教師と女教師を比べた場合, 概して女教師の方に消極的過誤が多く, 特に孤立児についてこの傾向が明白にうかがえる。これは女教師の性格に起因するものであろう。なおまた担任期間の長短が及ぼす影響はみられなかつた。