台中産の緑熟バナナ(Musa sapientum L., Sin-zun)を6℃に貯蔵し4, 9, 15日後に20℃に変温し低温障害の発生に伴う果実の呼吸,エチレン生成量の変化,果皮組織の代謝系路の異常,α-ケト酸の消長について観察し,さらに組織学的にも検討を加えた。 (1) 6℃に4日間貯蔵した果実は,20℃に変温後少しパターンがくずれるが呼吸のclimacteric riseの現象を示し,果実も追熟して可食状態になった。これに対し6℃に9日,15日貯蔵した果実は20℃に変温しても呼吸のcl. riseのパターンを示さず果肉も極度に軟化して品質が劣化した。 (2) 果実のエチレン生成と呼吸との間には密接な関係が認められ,呼吸のcl. riseの現象がみられた対照区および6℃-4日の果実ではエチレン生成も呼吸の場合と相似た変化を示したが,呼吸のパターンがくずれた6℃-9日,15日の果実はエチレン生成のパターンもくずれた。 (3) 症状が比較的軽い低温障害果の果皮組織でoxalacetic acid+acetyl CoA→citric acidの反応が阻害されていることが認められ,succinic acid→malicacidの反応はこの段階の障害では阻害されないことが認められた。 (4) 果皮のα-ケトグルタル酸含量は低温貯蔵中(6℃)でも幾分増加するが,果実を20℃に変温後4~6日で急激に増大する。このα-ケトグルタル酸の変後の増加現象は6℃-9日,15日の果実で著しい。 (5) 低温障害果の果皮組織の導管の部分に赤褐色の物質が蓄積する現象が認められ,その数は病勢の進展とともに増大する。