1. 交流高電界処理の特徴 交流高電界処理とは,イギリスの物理学者ジェームズ・プレスコット・ジュールが見出したジュールの法則(Joule's law)によるジュール熱を利用した加熱技術のひとつである.ジュール熱Qとは,電気抵抗R[Ω] をもつ物体に,電流 I[A]の2乗をt秒間[s]流したときに発生する熱量として下記に示す(1)式で表すことができる. (1)式 Q=R×I2×t さらに,オームの法則E[V]=R×Iを代入することで,(2)式に示すような抵抗に印加する電圧E[V]や電力に比例して加熱温度を変化できることがわかる. (2)式 Q=E2⁄R× t ジュール熱を利用した技術は,内部加熱方式として通電加熱やオーミック加熱と呼ばれ,英語ではelectrical resistance heating,Joule heating,electro-heatingと呼ばれており,古くから電気調理器具に使われていた技術である.今までは,商用周波数(50Hzまたは60Hz)が用いられており,使用する電極材料の腐食が問題となっていた.しかし,最近では,周波数を5kHz以上に高くすることで,電極界面の電気分解が抑制され,工業的に幅広く応用が進みつつある技術である.均一かつ迅速な加熱が可能である通電加熱は,工業的にパン粉やかまぼこ業界などで既に実用化されている. 一般的な内部加熱として用いられている通電加熱と比べて交流高電界処理の違いは,加熱時間(電極通過時間)が1s以内と極めて短く,電極間に印加する電圧として数100V/cm以上の印加電界強度であることがあげられる. 一般的な食品を処理した場合では,加熱される材料が500℃/s以上の速度で昇温されることになり,外部加熱方式と比べると昇温時における熱履歴を低く抑えられるというメリットもある. 2. 殺菌への応用 微生物の細胞膜に大きな電界を印加した場合に細胞膜表面に誘導膜電位が発生し,細胞膜を挟んで引っ張り合うクーロン力が作用する.このクーロン力に抗えなくなると,電気穿孔とよばれる細胞膜に穴が開く現象が認められている1)2).交流高電界処理は,上記の電気機械的な細胞膜の損傷と加熱による相乗効果により,加熱のみの処理と比べてより少ない熱履歴で微生物を殺菌できる.耐熱性を有する微生物胞子での殺菌効果も認められている3). 食品の殺菌処理として交流高電界技術を使用した結果,同様な殺菌効果を得ることが可能な外部加熱処理品と比べて食品中に含まれる有効成分や香気成分の熱的な分解や変化が抑制されることも認められている. 3. 酵素失活への応用 食品の品質の安定性向上のひとつとして,食品自体に含まれる酵素の不活化をあげることができる.加工食品中に酵素活性が残存すると,テクスチャーや色調の変化および有効成分などの分解が生じるが,交流高電界処理の非常に短い昇温時間が酵素の不活化に効果的に寄与することが認められている4). 今後,食品の実ラインにあった装置のスケールアップが進み,交流高電界処理が新たな安全で付加価値の高い食品の開発に寄与することが期待される.