神奈川県丹沢山地では, シカの増加に伴って, 採食圧が増加し, ブナ林の林床植生が衰退し, 土壌侵食が発生して深刻な問題となっている。本研究では, 丹沢堂平地区のブナ林の森林内の斜面に林床植生量およびリター堆積量の異なる試験プロットを5カ所設置し, 2008年4月∼2010年11月の樹冠通過雨量, 地表流流出量と土壌侵食量 (雨滴侵食量+布状侵食量) を測定し, 降雨に関する3要因 (降雨量, 降雨係数, 地表流流出量) と土壌侵食量 (雨滴侵食量+布状侵食量) ・雨滴侵食量・布状侵食量との相関を検討した。その結果, 土壌侵食量全体として, 相関の高い順に地表流流出量, 降雨量, 降雨係数となり, 雨滴侵食量については降雨係数と相関が最も高く, 布状侵食量については地表流流出量と相関が最も高いことがわかった。特に, 森林斜面においては雨滴侵食量より布状侵食量が卓越しているため布状侵食量に大きな影響を与える地表流流出量や降雨量が降雨係数より土壌侵食量に強い影響を与えていることを明らかにした。これにより, 森林斜面における土壌侵食量の推定にはUSLEで使用されている降雨係数よりも地表流流出量や降雨量を用いた方が良いことがわかった。