ソメイヨシノはサクラを代表する園芸品種の一つで, 日本で古くから親しまれてきた。近年, 植樹を行う際には周りの野生種の集団の遺伝的多様性に配慮することが求められるようになり, ソメイヨシノにおいても適切な植栽のために野生種との交雑範囲の特定が望まれる。本研究は分子マーカーを用い, ソメイヨシノとサクラ属の野生種との花粉を介した遺伝子流動の実態を明らかにするとともに, 交雑に影響する要因の推定を行った。ソメイヨシノを結実させた花粉親の95%は, 母樹からおよそ300 m以内の野生種個体に同定された。このとき, 交雑には距離や個体サイズに加え, 開花の重なる日数が重要な要因であると一般化線形モデルから判断された。一方, 野生のサクラから採取した種子において検出された, 最も長いソメイヨシノからの花粉散布は約190 mであった。野生種個体がソメイヨシノと交雑する割合は, 周りのソメイヨシノの密度に加えて開花の重なる期間が影響することが示された。ただし, ソメイヨシノとの開花の重なる期間は種・年によって異なり, それによって交雑範囲も変動すると考察された。