神奈川県東丹沢堂平地区のブナ林では, シカの採食圧により林床植生が衰退し, 土壌侵食が広範囲にわたり進行しており, 森林および渓流の環境に大きな影響を与えている。既往の研究により堂平地区においては土壌侵食の中で布状侵食の占める割合は雨滴侵食よりも大きく, 流出土砂は主として地表流により生産されていることが報告されている。本研究では2004∼2009年の間, 堂平地区のブナ林斜面において幅2 m, 長さ5 mの林床植生被覆率の異なる試験プロット4個を設置し, 樹冠通過雨量, 地表流流出量, 林床合計被覆率 (林床植生被覆率+リター被覆率), 土壌侵食量等を測定し, ブナ林斜面における林床合計被覆率が地表流流出率に与える影響について検討した。その結果, 林床合計被覆率 ( C m) と地表流流出率 ( R em) には R em=−18.9 ln ( C m) + 86.4で表される高い負の相関があることがわかった。このため, 地表流流出率は季節により大きく変化し, リター堆積量が少ない夏季 (7∼9月) はリター堆積量が多い春季 (4∼6月) や秋季 (10∼11月) に比べて地表流流出率が増加することが明らかになった。