関東平野周縁に位置するいくつかの森林流域における渓流水の硝酸イオン (NO3−) 濃度が, 日本各地の多くの森林流域と比較して特異的に高い傾向を示すことを明らかにするために, 茨城県南部において森林流域における渓流水のNO3−濃度分布の特徴と地理的要因について解析した。関東平野周縁に位置する八郷地区 (東京都心より65∼80 km) と都心からより離れた城里地区 (東京都心より100∼120 km) を比較すると, 八郷地区では多くの流域で渓流水のNO3−濃度が通年0.08 mmol L−1以上の高い値を示し, 城里地区における渓流水のNO3−濃度よりも有意に高い傾向を示した。また, 都心からの距離の増加に応じて渓流水のNO3−濃度が減少する傾向が認められた。林外降水による無機態窒素の流入負荷量は両地区間に顕著な差は認められないが, 樹冠通過降水による無機態窒素の流入負荷量は, 八郷地区では城里地区の2倍以上に達した。このことから東京近郊から移流する窒素化合物の乾性沈着の影響の違いが, 両地区の渓流水のNO3− 濃度の違いとして現れている可能性が高い。