神奈川県東丹沢堂平地区では, シカの採食により, 林床植生が衰退し, 土壌侵食が広い範囲にわたって進行している。土壌侵食の実態を把握するため, 堂平地区のブナ林の山腹斜面に長さ5 m, 幅2 mの土壌侵食調査プロットを17箇所設置した。これらの土壌侵食調査プロットについて, 2006∼ 2008年の3年間の4∼ 11月の期間, ほぼ毎月1回土壌侵食量を観測するとともに, 同時に撮影した写真を用いて林床合計被覆率 (林床植生被覆率+リター被覆率) を求めた。その結果, 雨量1 mm当たりの土壌侵食量 ( E ) と林床合計被覆率 ( F ) には指数関数 E =65 exp (−0.0615× F ) で表わされる高い負の相関があることが分かった。得られた関係式では林床合計被覆率が小さい範囲では林床合計被覆率が大きい範囲に比べて林床合計被覆率のわずかな変化が土壌侵食量に大きな影響を与えており, 既往の人工降雨実験に基づく研究により得られたリター被覆率と土壌侵食量がほぼ直線的に反比例する関係とは大きく異なる結果が得られた。