北関東地方の高齢スギ・ヒノキ人工林小流域において斜面下部のスギ林を伐採し, その前後の土壌および渓流水質の長期変動について調査した。土壌水のNO3− 濃度変動は比較的速やかで, 伐採直後の植生による養分吸収の減少, 表層土壌での窒素無機化の促進や, 伐採から数年後の後継樹による養分吸収の増進など, 伐採後の窒素循環の変化を直接的に反映していた。一方, 渓流水のNO3− 濃度変動は緩慢であり, 伐採6年目でも伐採前よりも高い傾向が継続していた。渓流水のNO3− 濃度と流出速度の関係より, それぞれ直接流出, 基底流出が優勢している高水, 低水時のNO3− 濃度を求め, これらの伐採前後の年変動より, 土層中のNO3− 濃度の分布が渓流水質に影響を及ぼしていることが推察された。さらに, 土層中の水・溶質移動モデルであるHYDRUS-1Dで土壌中のNO3− 濃度変動をNO3− の土壌吸着がある場合とない場合で予測した結果, 吸着がある場合では下層土のNO3− 濃度は渓流水のNO3− 濃度の実測値と季節変動や長期変動パターンが一致した。このことから, 火山灰土壌特有の土壌の陰イオン吸着がNO3− の流出に影響することが示唆された。今後, 人工林の長伐期化や伐採方法, そして森林を取り巻く環境の変化が土壌水や渓流水の窒素動態に及ぼす影響を明らかにするためには, 火山灰土壌のNO3− 吸着特性も考慮する必要がある。