豪雪地帯において,ブナの稚樹が母樹の根元で少ない原因が野ネズミによる種子の捕食にあることを確かめるために,豊作翌年の2006年に母樹からの距離ごとの当年生実生の発生数を調べた。対象とした林分では,2005年の豊作時には種子落下数が母樹からの距離と関係がなかったにもかかわらず,翌春に発生した当年生実生は母樹の根元周辺で著しく少なく,母樹から離れるほど多い傾向にあった。また,菌害などで発芽に失敗した種子の数は少なく,距離による違いもみられなかった。これらのことは,春先の残雪が野ネズミによる種子の捕食を軽減する効果があり,ブナの稚樹バンクの空間的分布パターンの決定には,種子の段階における捕食回避の可否が大きく関わっていたことを示唆している。