火山灰土壌は変位荷電による陰イオン交換容量(AEC)を有し,非特異吸着により陰イオンを吸着する。この特性が森林土壌におけるNO3-動態に及ぼす影響を明らかにするため,バッチ法およびカラム法で火山灰の混入した森林土壌のA層およびB層のNO3-吸脱着の特性を調べた。バッチ実験より,B層土壌は添加溶液(KNO3溶液)の濃度上昇に伴いNO3-吸着量が増加し,変異荷電によるイオン吸着の特徴がみられた。A層のNO3-吸着量はB層に比べて非常に少なかった。土壌の全C濃度とNO3-吸着量との間には強い負の相関がみられ,正荷電量は有機物含量に規制されていた。一方,A層にはpHとNO3-吸着量との間に負の相関が認められ,腐植による変異荷電が存在し,B層とは正荷電の主体が異なることが示唆された。カラム実験の結果,現地土壌水の伐採前後のNO3-濃度の変動,およびB層厚より,伐採後の下層土のNO3-吸着保持の増加は60 kgN ha-1と算出され,伐採後に林床で分解・放出された多量のNを一時的に保持し,渓流のNO3-濃度の急激な上昇を抑制していると考えられた。カラム実験より,NO3-溶液で平衡に達したB層カラムに脱イオン水を通すと,最終的には添加したNO3-の全てが脱着することから,現地伐採流域における渓流へのNO3+-N流出増加量は少ないが,流出増加は長期にわたると予測された。また,カラム実験および現地土壌水の陰イオン量の測定から,将来はNO3-流出に引き続き,SO42-の流出の増加も予測された。