林床に散布されたカスミザクラ種子を吸汁し,それによって種子の腐敗を引き起こしているツチカメムシの繁殖期の生態を調べた。実験室でツチカメムシの飼育を行ったところ,種子を土の中に1 cm程度埋める貯蔵行動が認められ,貯蔵した後に吸汁を行うことが明らかになった。ツチカメムシの1齢幼虫に吸汁された種子でも腐敗し,1頭の1齢幼虫に1個のカスミザクラ種子を与えた場合,43%の個体が成虫まで生存した。また,カスミザクラの散布時期である6月中旬∼7月中旬にカスミザクラ樹冠下で活発に活動しており,7月下旬∼8月下旬に幼虫も認められた。以上より,ツチカメムシはカスミザクラ樹冠下で繁殖しており,カスミザクラの種子の重要な種子捕食者であると推察される。また,調査地で採集された8種の種子をツチカメムシに与えたところ,6種の種子で吸汁が認められ,カスミザクラ以外の種についても,散布後の種子の腐敗を引き起こしている可能性がある。