官能試験結果および生存能から選抜した焼酎酵母S20E12株を用いて実験室規模で返し仕込みによる酎製造に関する研究を行った。得られた結果を以下に要約する。 (1)従来仕込み条件の返し仕込みへの影響をまず検討した。その結果,従来法による二次仕込みでは発酵終了後,酵母は速やかに死滅することから,発酵終了膠は直ちに蒸留される方が酒質面等から好ましいことがわかった。また,返し仕込みの発酵速度および開始時の粘度から,従来法の麹歩合を30%以上とした。 (2)従来法(麹歩合33%)の二次9日目の膠を-63cmHg, 45℃ の条件で約4時間かけて減圧蒸留した。蒸留前後における糖化酵母活性は,むしろ増加した。また,この間酵母は約35%死滅したが,蒸留残液中に酵母はなお4.7×107 cells/m l 生存していた。 (3)蒸留残液に酒母や麹を添加することなく,ただ蒸米だけを加え返し仕込み試験を行った。発酵は雑菌汚染することなく, 9日目にはすでに終了していた。発酵日数の異なる膠を蒸留し,得られた製品の香気成分を分析した結果,発酵日数が長くなる程,酢酸インアミルやn-プロピルアルコールは減少し,逆にアセトアルデヒドが増加した。従って,酒質面から従来法同様,発酵終了後直ちに膠を蒸留すべきであることがわかった。 (4)蒸留残液を室内で1日放置しても汚染の恐れもなく,また生菌数や糖化活性も全く変化しなかった。この蒸留残液を用いて返し仕込みを行ったところ,発酵や酒質への影響は全く見られなかった。 本研究の遂行にあたりご指導,ご助言を賜りました熊本国税局鑑定官室長嶋嫡孝行氏,前主任鑑定官白上公久氏および鑑定官室の諸氏に厚く御礼申し上げます。また,本研究に協力された学生吉田めぐみさんおよび鶴田恵三君に心から感謝いたします。なお,本研究は日本酒造組合と球磨焼酎酒造組合,熊本大学工学部物質生命化学科との共同研究で実施したものである。