高知県室戸市では水深320mの海中から海洋深層水(DSW)を取水している。DSWはその清浄性および多くのミネラルを含むことから, 様々な発酵食品に応用されている。今回, 清酒発酵に与えるDSWの影響を調べることを目的として, 小スケールでの清酒発酵試験(1-2L)を行った。従来からDSWを発酵中に添加することにより, 清酒の香気成分すなわち酢酸イソアミル, カプロン酸エチルおよびカプリル酸エチルの生成を亢進することが知られている。この現象のメカニズムを探る目的で, DSWを添加して発酵させた場合の酵母の遺伝子発現をcDNAマイクロアレイを用いて解析した。その結果, DSWの添加により高級アルコーレおよび脂肪酸の代謝, 生合成に関連する遺伝子の発現上昇が認められた。これらの発現上昇が清酒の香気成分の生成量を増加させたものと推察された。また, DSWを添加した清酒の小仕込を行い, 官能検査を実施したところ, NaClやDSWの主要ミネラルを添加した場合に比べて総合評価が有意に高いことが明らかとなった。さらに興味深いことに, NaClを単独添加した場合, ストレスに関連する遺伝子の発現が上昇することが見出された。一方, DSWを添加した場合, このストレス関連遺伝子の発現上昇は抑えられた。以上の結果からDSWを清酒醸造に応用することの重要性が示されたものと思われる。