「ポジティブ心理学運動」に刺激され,これまで多くの研究がポジティブ感情の役割を調べてきた.本論文では,まず,ポジティブ感情の定義と測定方法にかかわる問題のいくつかを明らかにした.特に,ポジティブ感情の多くの種類が未だ考慮されていない現状を指摘し,あわせて測定方法の精度の低さの問題を強調した.続いて,ネガティブ感情と比較しながら,ポジティブ感情がもたらす多くの恩恵が,知覚,情報処理,健康,対人関係などの広範囲にわたりレビューされた.そのレビューでは,過去においてポジティブとネガティブ感情にかかわる知見の不一致が生じた理由を考察し,不一致の原因を探りながら,両感情にかかわる一致した見解の確立の可能性をさぐった.最後に本論文は,これらの恩恵をもたらす仮説的メカニズムについて明らかにした.本論文の全体を通して,広範囲にわたるこの種の研究がもつ重要な問題を指摘し,それと同時に,今後実施すべき研究を示唆した.今後の研究としては,文化差ならびに介入研究が強調された.