(1) アミノ酸と糖を使つたモデル実験によると,みそやしようゆを作る条件で,アミノ酸と糖によるかつ変反応が起ることはほとんど確実である。そしてこの反応の主役となる糖はペントースであると思われる。グルコースは,ペントースよりも一ケタ多く存在するのがふつうであるが,その役割は補助的で,アミノ酸とペントースの反応をかなり強く促進することに重大な意義を持つている。なお,グルーコスの代りに,しよ糖や麦芽糖を加えてみても,こういう効果は見られない。淡口しようゆを作るときに激しく発酵させたり,あるいは,みその熟成中に発酵が激しかつたりすると,色の薄い製品ができるという事実は上のような実験からも説明できよう。 (2) フルフラールはみそやしようゆの色の生成に,あまり大きな関係があるとは思えない。(新式2号しようゆやアミノ酸しようゆは除く。)たとえば,しようゆに含まれている10-4%程度,あるいはその100倍量のフルフラールを,みその搾り汁やしようゆに加えてみても,着色にはまつたく影響しない。また,みその搾り汁やしようゆからエーテル可溶物を除いてみてもも同様である。さらに,アミノ酸や糖を使つたモデル実験でも同様な結果である。 (3) みその搾り汁やしようゆの着色には酸素が影響し,アミノ酸と糖による着色にも酸素が影響する。また,蒸した大豆にタカジアスターゼを加えたときの着色についても同様な現象が見られ,いずれも酸素のあるばあいのほうが濃くなる。ただし淡口しようゆだけは例外で,着色には酸素が必要である。 こうしたことから見ても,みそやしようゆを作る条件で,アミノ酸と糖によるかつ変反応の起つていることが裏付けられる。 なお,この報告は,昭和34年4月の日本農芸化学大会に「みそ・しようゆの着色に関する2, 3の知見」の名で発表するものの一部である。