研究開発に対するインセンティブを与える制度である特許法制度では,特許を受ける権利は,発明者に原始的に帰属するものとし,例外的に,職務発明については使用者等に予約承継を認めるものの,その際には,使用者等に,発明者に対して相当の対価を支払うべきことを義務づけている。最近,発明者がかつて在籍していた会社を相手取って,職務発明に対する高額の対価を請求する訴訟が続発している。2002年11月29日の東京地裁判決(日立事件)では,企業に対して,発明者(元従業員)に約3,500万円という過去最高額の職務発明の対価を支払うよう命じた判決があった。特許の対象とならない類の研究成果,著作物などに対しては,これとは別の扱いとなる。本稿では,研究開発など創造的活動の成果の帰属,研究者に対する補償制度についての現状と課題について考察することとし,本号では,最近の職務発明訴訟における補償の状況について検証した。