我が国では,現在戦後最大の不況が続いている。経済関係者の間に,これを克服するために,1930年代のアメリカ大恐慌とルーズベルト大統領のニューディール政策に関心が高まっている。ニューディールは,アメリカ経済政策史において大きな転回点となり,経済政策の原理が,個人主義,無制限の自由から,政府による経済活動,国民生活に対する支援や規制など積極的な介入主義に転換した。一方,この時期には,アメリカの科学技術体制について同様な構造的転換が起こっている。科学界,民間が主体となって,19世紀末から進められていた科学技術推進体制の強化が,この大恐慌を境に政府が積極的に関与する構造的な変革への動きとなる。特に1935年以降,政府の研究開発投資が急速に回復し,多くの研究施設が建設され,また,グラント,コントラクトなど研究開発支援のための新しい制度が開発され実施に移される。当時整備された研究施設や研究支援の制度は,アメリカの現在の科学技術体制の基盤となっている。