本報に於ては,強化木及び積層材の顯微鏡的構造竝に其細胞膜の顯微化學的研究を試み,其の摘要は次の通り。 1. 強化木及び積層材が無處理の眞樺材に比して,比重が相當昂上してゐるが,其の一因は比重1.4の合成樹脂浸潤であつて,他の一因は製造工程中に受くる加熱及加壓の影響で,特に後者の作用に基くものである。 2. 加壓に依る木材組織の比重昂上をHägglundの式より推算せる細胞腔隙率とB.Haber及びG. Prützに依つて考案されたLineartaxationenに據る測定率とを對比し,略符合することを明かとすると共に,其の比重に依り腔隙率を推算し得ることが分った。 3. 強化木及び積層材中の導管がHerzogの所謂横断面の完全度に瞭かなる如く,著しい變形を受け,又髄線が比較的灣曲し易いことを認め,特に接着面に對し髄線が傾いて居る場合は灣曲の程度が著しい。 4. Delafieldische Hämatoxylin, Chlorzinkjod及びDxamin blauの染色に依る顯微化學的實驗を行ひ,強化木及び積層材の繊維が20~200kg/cm2の加壓作用で破壤を生じ,即ちLigrinで包まれて居るZelluloseのMicellがLigninを剥れて露出せる事實を證明した。尚特に髄線が接着面に對し傾斜せる場合,加壓に依り著しく灣曲することは前述の通りであるが, Oxamin blau染色により青色に其部分が染まる事實より,繊維の破壊が顯著なるものと推定され,合成材製造上看過し得ない事項であらう。 5. P. Brenner及びI. Kraemer竝にKurt Rieohers等は細胞膜を通じて内部へ合成樹脂は浸潤しないと記述せるに對し,著者は合成樹脂アルコール溶液に溶解せる硝酸銀をHydrazinsulfat.に依つて還元せしめ,銀の粒子を合成樹脂浸潤の箇所に定着せしめ,又木繊維が斯様に銀を定着せる際に示す二色性(Dichrsismns)を觀察し,以つて合成樹脂アルコロール溶液は細胞膜に浸潤し得る事實を發見し,從來の定説の更改を餘儀なくせしめ,延ては製造工程に於て石炭酸フオルムアルデヒド樹脂浸潤め溶媒及び浸潤處理等が新に研究の對象たり得ることを窺はしめる。