写真の色素増感に関する電子移動機構とエネルギー移動機構の間の長年の論争は,ハロゲン化銀(AgX)表面の色素分子のイオン化エネルギーが真空中に比べて1.5-2 eV小さいことと,色素/AgX界面で真空準位がシフトすることが明らかにされて電子移動機構が定説となった.本研究では残されていた問題である色素/AgXおよびゼラチン/AgX界面の電子構造の解明に紫外光電子分光法(UPS)などを用いて取り組んだ.その結果,色素分子の双極子のAgX表面への配向および表面の銀イオンとハロゲンイオンの偏位(Rumpled effect)の有機層による緩和がAgXのイオン化エネルギーを減少させることを明らかにした.Rumpled effectの緩和はまた,色素増感で採用されているAgXのイオン化エネルギーが超高真空中での高純度のAgXより小さい理由の説明ともなった.かくして残されていた問題の原因は明らかになり,電子移動機構が一層確かなものとなった.