ビオチンは, 種々の食品に広く分布している。しかし, ビオチンは, 五訂日本食品標準成分表には収載されておらず, 食品中の含量をはじめとして, 食品中での存在状態, 調理や加工による変化, 生体内における利用率などについて, ほとんど明らかにされていない。そこで, 日常的に摂取している代表的な101食品について, 食品中のビオチン含量を分析し, 諸外国の食品ビオチン量と比較した。食品群ごとにビオチン含量をみると, 豆類, 種実類, 卵類, 調味料および香辛料類で平均10μg/100g以上の高値を示した。一方, 野菜類, 果実類, 乳類, 油脂類では, ビオチン含量は低値であった。調味料では, ビオチンは多く含まれているが諸外国と大きな相違がみられた。これは, 諸外国では酵母類に由来し, わが国では醤油や味噌が, 大豆を原料に作られていることに由来する。しかしながら, 全体として, デンマークやドイツの食品成分表では, 食品のビオチン含量について, わが国と大きな相違は認められず, これらの国の食品のビオチン含量値も利用が可能である。平成13年度の国民栄養調査結果から食品群別にビオチン摂取量を算出した。本研究の測定値から算出した結果では, 1日あたり男性で110μg, 女性で92.3μgであり, 食事摂取基準 (2005年版) の目安量と比較して, それぞれ244%および206%であった。ビオチンは, 食品によって含量だけでなく, 遊離ビオチン率にも大きな相違がみられた。鶏卵では, 卵黄中の遊離ビオチン率が高値を示し, 卵黄がビオチンの供給源として有用な食品であることが示唆された。