1) フィチン酸を小麦ふすまのフィターゼで分解, イオン交換クロマトグラフィーで分画した, IPnの10個のピークについて, カルシウムの生体吸収促進効果を知るために, in vitro でのカルシウム沈澱阻害活性を調べた。 2) IP1のカルシウム沈澱阻害活性をpH 7.0とpH7.4について調べた。ややpH 7.0のほうが活性が強いといえるが, いずれのpHにおいてもカルシウム沈澱阻害活性は非常に低かった。 3) IP2~IP6の1×10-4Mおよび1×10-5Mでのカルシウム沈澱阻害活性を調べたところ, 1×10-4Mでの活性は, IP3~IP6では反応1~2時間以降6時間までほぼ一定の値を示しているのに対し, IP2は4時間以降6時間にかけて急激にカルシウム沈澱阻害活性が低下していることがわかった。1×10-5MではいずれのIPもほぼコントロールと同程度でまったくカルシウム沈澱阻害活性は認めることができなかった。 4) IP2~IP4の1×~1×10-3Mの濃度でのカルシウム沈澱阻害活性を調べたところ, IP2は1×10-4Mでは活性が弱いが3×10-4M以上の濃度では一定の強い活性を示した。IP3はこの濃度範囲では一定の活性を示した。IP4は1×10-4MではIP3よりも高い活性を示しているが, 濃度が増すにしたがって活性が低下し1×10-3Mでは残存カルシウム量は1mMとなっていた。 5) IPのカルシウム沈澱阻害活性における役割を調べたところ, 沈澱に際してカルシウムと無機リンの結合はほとんど認められず, カルシウムとIPの結合が主体であることが判明した。その沈澱中のCa: Pはほぼ1: 1であった。 6) 以上のことよりIPnとくにIP2, IP3, IP4が in vitro でのカルシウム沈澱阻害活性を有していることがわかり, IPnによるカルシウムの生体吸収促進効果を増強する可能性が示唆された。