微量元素欠乏飼料を9週間摂取させたラットに, 微量元素無添加のTPN (A群), 鉄, 亜鉛, 銅およびヨウ素を添加したTPN (B群), 微量元素欠乏飼料の継続 (C群), 鉄, 亜鉛, 銅およびヨウ素を添加した飼料 (D群) を1週間投与し, 生体内の微量元素含有量におよぼす影響を検討した。 対照として正常ラットに市販の維持用固型飼料を摂取させた群 (E群) を設けた。 1) 鉄無添加のTPNにより諸臓器中の鉄含有量は著明に低値を示し, 鉄補給により回復した。 諸臓器中の鉄濃度の変化は尿中排泄鉄量には大きく影響せず, また血漿中鉄濃度が正常域に回復しても臓器中鉄濃度は低値であった。 2) 亜鉛無添加のTPNでも鉄同様, 著明な欠乏亢進が認められ, 亜鉛補給により回復した。 亜鉛の尿中排泄量および血漿中濃度は投与量をよく反映し, 諸臓器中の含有量にも相応する変化を示した。 3) 銅については銅無添加のTPN施行時のみ, 欠乏が顕在化したが, 銅補給により血中あるいは腎臓では正常ラットよりやや高値を示した。 4) ヨウ素は尿中排泄の割合が高く, 投与量は尿中排泄量によく反映した。 ヨウ素補給の影響はT3/T4比の低下に認められた。 以上により, 潜在的あるいは顕在的微量元素欠乏のある生体にTPNを施行する際, 鉄, 亜鉛, 銅およびヨウ素を補給する必要性を認めた。 一方, 欠乏の状態や至適補給量の指標として亜鉛, 銅の尿中あるいは血漿中濃度は有用と考えられるが, 鉄では他の指標が適当と思われた。 ヨウ素は尿中にほとんど排泄されるが, T3/T4比が欠乏状態を知る一指標と考えられた。