有機スズ化合物のトリブチルスズ(TBT)は難分解性,高疎水性のため,海水中の懸濁粒子に吸着,沈降し港湾堆積物に蓄積している.本研究では名古屋港の海水と堆積物のTBTとジブチルスズ(DBT),モノブチルスズ(MBT)の濃度分布を調査した.その結果,TBTは港奥の堆積物に高濃度で存在し,港湾面積約83km2あたりの溶出フラックスは約2~13 g-Sn/dayと推定した.TBTおよびDBTの堆積物粒子含有濃度 q と間隙水中濃度 C p の比である分配係数 Kd (= q/C p )と,TOC含有量との相関式を示した. Kd は粒子のC/N比により異なり,有機物の成分構成に影響を受ける可能性を指摘した.さらに各物質の移動フラックスを算定し,TBTは堆積物から海水へ,逆にDBTは海水から堆積物へ移行していることが推定された.