トチの実ならびにヒシの実よりデンプンを精製しその性質を調べた.トチの実ならびにヒシの実デンプン粒の大きさはトウモロコシデンプン粒とほぼ同じであったが, SEM で観察したヒシの実デンプン粒はやや細長い形であった.両デンプン粒の酵素分解性はトウモロコシデンプン粒の約70%であった.両デンプン粒の溶解度と膨潤度は70℃ ではトウモロコシデンプン粒よりも低いが, 80℃ では溶解度はトウモロコシデンプンの約3 倍, 膨潤度は約1.5 倍となった.フォトペーストグラフィーとDSC により求めた糊化開始温度はトチの実デンプン (55.9℃, 58.7℃), ヒシの実デンプン (66.2℃, 70.5℃) となり, 両者ともフォトペーストグラフィーの方がやや低いが, いずれもヒシの実デンプンの方がトチの実デンプンよりも10℃ 以上高かった.電流滴定により求めたアミロース含量はトチの実デンプンは26, 4%, ヒシの実デンプンは23.4 %となり, ゲルろ過分別の結果ともよく一致し, トチの実デンプンの方がヒシの実デンプンよりもアミロース含量はやや高いことがわかった.6% 濃度のブラベンダーアミログラムでは, ヒシの実デンプンはブレークダウンがほとんどなく冷却時に粘度が大きく上昇するのに対し, トチの実デンプンは最高粘度が高くブレークダウンがやや大きいが, ヒシの実デンプンと同様に冷却時に粘度が上昇する特徴がみられた. X 線回折図形はトチの実デンプンはCb 図型, ヒシの実デンプンはCa 図型であった.両デンプン糊の粘度が冷却時に低下せず, むしろ上昇する特徴から, これらのデンプンは糊や増粘剤としての用途や, あるいは調理用には時間経過による粘度低下がしにくい利点が考えられる.