香りの心理・生理効果を解明することを目的とした研究の一環として, 今回, 6チャンネル皮膚温度計による温度計測法を導入し, 香り吸入時の被験者左手の5本の指先と掌の温度変化を同時記録し, それらすべての温度変化を積算した積算温度曲線により, 香りの効果を皮膚温度変化の視点から評価することを試みた. 実験に供した香油は, 「作業 (精神作業, 踏台昇降運動, 環境音聴取) 」の視点を導入した我我の官能評価実験 (官能検査) により, 精神作業に対して互いに異なる1対の “官能評価スペクトル” を与えることが分かったバジルとペパーミントとした.なお, “官能評価スペクトル” は13の形容詞句の対からなる各印象項目について, 作業前後で香りの官能評価を行い, 作業前後の香りの官能のスコア差を縦軸に取り, 13の印象項目それぞれについてそれらのスコアが真に変化したと言えるのか否かを'一検定で判定した結果と共に棒グラフ表示したものである. 香り吸入器を用いて, 無臭ブランクをコントロールとしながら被験者にバジルとペパーミントをそれぞれ吸入させ, 被験者の左手の5本の指先と掌から得られた6チャンネルの皮膚温度データーをコンピューター上で足し合わせた積算温度曲線により, それらの香りの効果を評価した.その結果, (1) 精神作業後香りの印象評価が上がる “官能評価スペクトル” を持つバジルは, 作業後の温度上昇傾向が認められたのに対し, (2) バジルとはまったく逆の “官能評価スペクトル” を持つペパーミントでは, このような温度上昇傾向は認められないことが明らかとなった. 従来より, 精神の興奮等は皮膚温度の上昇をもたらすとの報告があるが, 本報告では, 香り吸入に伴う同様の皮膚温度の上昇傾向を6チャンネル皮膚温度計を用いることによって, 初めて捉えたものである.なお, 被験者に課した精神作業は, クレペリン精神検査に基づくもので, ランダムに並んだ数字の列の隣どうしを加算する計算作業である.この作業を5分間行わせた.