ミネラルウォーターの硬度が豆や野菜の煮熟調理に及ぼす影響を明確にするために, 硫酸マグネシウムと硫酸カルシウムを用いて硬度の異なる調整ミネラル水を調製して実験を行った. (1) インゲンマメ, ダイコンとも試料への調整ミネラル水中のマグネシウム, カルシウムの浸透はいずれも硬度の高いものほど大であった.硫酸カルシウムと硫酸マグネシウムの混合使用では, カルシウム, マグネシウムとも混合割合とほぼ同じ割合で浸透していることが確認された.試料中のリンの含量は硬度の高い水で煮熟したものほど溶出量が抑えられる傾向がみられたが, カリウムでは脱イオン蒸留水煮熟に比べて大差が認められなかった. (2) 煮熟後におけるインゲンマメ子葉部の切断応力の測定結果では, 硫酸マグネシウムと硫酸カルシウムでは同じ硬度でも軟化に及ぼす影響に相違がみられ, 硫酸カルシウムは軟化を抑制したが, 硫酸マグネシウムでは抑制が認められなかった.また, ダイコンにおける破断応力の測定では, 硫酸マグネシウム, 硫酸カルシウムともに顕著な軟化抑制効果は認められなかった. (3) 調整ミネラル水で10分間煮熟したインゲンマメ子葉部の低真空走査電子顕微鏡観察の結果, 硫酸マグネシウム添加煮熟では細胞が丸みを帯びて膨らみ, 脱イオン蒸留水煮熟にほぼ近い状態を示していた.しかし, 硫酸カルシウム添加煮熟では細胞間隙に沿った窪みがはっきりと観察され, 細胞間の接触面も脱イオン蒸留水煮熟や硫酸マグネシウム添加煮熟に比べてより平面状であり, 軟化が抑制されていることを示す像が観察された. (4) 調整ミネラル水で20分間煮熟したダイコン柔組織の低真空走査電子顕微鏡観察の結果, 試料の割断面はいずれの硫酸塩添加の場合も脱イオン蒸留水で煮熟した場合とほぼ同様に細胞壁の中層部で分離していて, 軟化した様子が観察された.