貯蓄は将来の消費であり, その主な項目は, 住宅, 教育, 老後であるので, 家計の貯蓄行動は, ライフステージに依存していると考えられる.そこで, ライフステージ間で家計の貯蓄行動を比較した結果, 特に, 40歳代は他のライフステージとの違いが大きいことが明らかになった.主な結果を以下に示す. (1) 黒字率は, 世帯主の年齢階級が高くなるにつれて上昇するが, 40歳代で低下, 50歳代で上昇, 60歳代前半で低下, 60歳代後半で再び上昇するというパターンを示した.このような黒字率の変化は, 教育費等のようにライフステージ間で大きく増減する支出があり, これによって家計の余裕度に違いが生じるためである. (2) ライフステージ別に貯蓄関数を推計し, 各ライフステージ問で貯蓄行動に違いが存在するか否かを, チョウテストを行うことにより証明した.その結果, 20歳代前半と60歳代以上を除いて, ほとんどのライフステージ問で貯蓄行動に違いが認められた.特に, 40歳代後半は他のライフステージとの違いが大きいものと推察された.また, 推計されたパラメータを比較すると, 40歳代から50歳代前半では可処分所得の効果が他のライフステージに比べて小さかったが, (1) の実態からも明らかなように, 教育費等のライフステージに関連した支出の負担増が原因していると考えられた.また, 60歳代後半において可処分所得の効果が大きくなっていたが, 高齢期に入ってさらに自助努力を高めていることがうかがえた. (3) コーホート分析した結果, ライフステージ間で経済状況の影響の仕方に特徴がみられた.実態でもみられたように, 40歳代はライフステージに関連した支出が増えるため, 好況時でも貯蓄においてはあまりその恩恵を受けていなかった.そして, 不況時のダメ一ジも40歳代でよくみられたが, いくつかの世代において, バブル崩壊の影響の仕方がフローとストックの貯蓄で一致しておらず, バブル期における住宅取得が崩壊後のストック形成に影響していると思われる結果が示された.また, 60歳代はバブル崩壊後でも大きくストックを増やしたが, 世代内での資産格差の拡大もみられた.