阪神大震災の被災者の衣生活行動の経時変化を追跡的に調査することによって, 実態の記録と災害など非常時の着装行動に対する危機管理に関する基礎資料を得て, 衣生活への備え方を探求することを目的として, 被災後の着装行動に関する考察を試みた. 資料は, アンケート形式による質問紙調査を 1995年 7 月に女性被災者 204 名を対象に, さらに追跡調査を第 1 回の調査対象者から無作為に 104 名を抽出し, 1996 年 1 月に実施して得た. 主な結果は以下に示すとおりであった. (1) 避難時の服装は, 被災程度の大きい地域ほどねまきなど発生時のままで, しかも裸足で避難した例が多く, 着がえてから避難した者は全体の約 3 分の 1 だった. 寒中の早朝に, 着の身着のまま, コートあるいはセーターなどを加えただけで, 靴も履かずに避難したことが明らかにされた. (2) 履物は, 当日は被害が大きいほど, 裸足やスリッパの利用がみられるなど, 地震発生時間と日本の居住様式による影響が認められた.その後の経時変化は, ライフラインの復旧の進展との関わりが顕著で, 被災の1カ月後は運動靴が過半数であったのに対し, 6 カ月以降は運動靴は 20% 以下となって, 歩きやすい靴に, 次いでヒールの高いおしゃれの要素のある靴が増した. (3) 自宅の庭・車中などで着がえたなど, 非常時の着脱行動の特徴がみられ, 1 週間以上着がえられなかった例が 5.3% あった. 衣生活に関わる救援活動システムや情報伝達方法に, 多くの課題があることがわかった. (4) 寝る時の服装の経時変化では, 寝衣を着た者は被災当日の夜が前夜の 28% (47 人), その後も日常着のままが多く, 1カ月後でも寝衣の着用は 53.9% で, 6カ月後にようやく震災前に回復した. 年齢層や性別による違いがみられ, 男性の高齢者の回復が最も遅かった. (5) 寝具は, 居住環境が劣る被災者ほど, 1 カ月以上も毛布のみで過ごした者が多く, 心身の健康を損なう二次災害の 1 要因になったといえる. (6) 6カ月以後の衣生活意識では, 75% がおしゃれに関心を持ち, 63.7% の被災者が着たい服装色が直後とは変化し, 1 年後では明るい色, 暖かい色・鮮やかな色を着たい者が多かった. しかし, 灰色など目立たない色を選ぶようになった者もあり, 装いの心が復活する傾向が強い反面, 震災によって着装意識が変化した者もみられた. 以上の結果から, 緊急時への危機管理に関しては, 日常生活の延長上に非日常の生活があることを認識することが重要であり, わが国においては都市型の衣生活に対する危機管理を検討する必要性がわかった.サバイバルスキルの教育, 危機管理の教育の必要性とこられの早期実践の重要性を提言した.