増大する教育費負担が, 少子化の一因となっているとされている.そこで, 家計の教育関係費の支出行動におよぼす子ども数の効果について, 計量経済学的手法を用いて検討した.その結果, 世帯属性 (所得, 世帯主の年齢) に違いがあっても, 少ない子どもには十分な教育関係費をかけようとする傾向が認められた.今後, 晩婚化や女性の職場進出等によってさらに少子化は進み, あわせて教育費の増加をもたらす進学率の上昇等も進展するものと予想されるので, よりいっそう子ども1人当たりの教育関係費は増加していくものと思われる. 今回の分析によって得られた主な結果は, 以下に示すとおりである. (1) 同一の所得水準であっても, 子ども数が少ない世帯ほど, 子ども1人当たりに支出する教育関係費は多くなる傾向にある.また, 所得水準が高くなるほど, 子ども数が異なる世帯間における子ども1人当たりの教育関係費の差は拡大する傾向にある. (2) 同一の世帯主の年齢であっても, 子ども数が少ない世帯ほど, 子ども1人当たりに支出する教育関係費は多くなる傾向にある.また, 世帯主の年齢が高くなるほど, つまり子どもの発達段階が進めば, 平均的にかかる教育関係費が多くなるので, その結果, 子ども数が異なる世帯間における子ども1人当たりの教育関係費の差は拡大する傾向にある. (3) 所得弾力性は, 子ども数1人世帯が最も高く, 次いで2人世帯と, 子ども数が増えるにつれて低下するという結果を示した. (4) 年間収入の平均値を境とした上位と下位のグループでは, 教育関係費の支出行動が異なっているということが統計学的に明らかになった.このような収入階級の上位と下位における教育関係費の支出行動の違いは, 収入上位と下位における子どもの発達段階の差が影響してでてきた可能性がある. 収入階級の上位, 下位ともに, 子ども数が増えるにつれて所得弾力性は低下するという点では共通しているが, 収入上位よりも収入下位のほうが所得弾力性が高く上級財的性質を濃厚に示した.しかし, 収入上位よりも収入下位のほうが, 子ども数の増加につれて所得弾力性が著しく低下する傾向にあった.また, 子ども数のダミー係数は, 子ども数の増加とともに大きくなっていくが, 収入上位のそれよりも収入下位の増加が著しいことが明らかになった.このことより, 収入上位より収入下位において, 少ない子どもに十分の教育関係費をかけようとする傾向が顕著にあるということがわかった.