イワシのぬか漬処理中に起こる肉のテクスチャーの変化をとらえ, その原因を探究しようとして実験をし, 以下の結果を得た. 1) ぬか漬いわしは, 処理期間が1カ月より3カ月, 5カ月と長くなるにつれて, 官能検査において, においは好ましく, 魚肉はやわらかく, もろくなっていた.塩からさが減少し, うま味が強くなり, 総合的にも好まれた. 2) イワシの塩漬魚は生肉より硬さが硬くなり, 砕けやすさ度は低下した.ぬか漬肉では, 保存時間が長くなるにつれ魚肉の硬さは低下し, 砕けやすさ度が上昇した. 3) 肉のタンパク質の変化をSDS-PAGE分析でみると, 塩漬肉ではイワシ生肉とほとんど変わらなかった.ぬか漬処理によって, 高分子量成分が減少し, 低分子量成分の増加がみられた.とくに分子量4万以下の成分が増加していた. 4) ぬか漬魚肉の遊離アミノ酸を分析すると, 保存期間が長くなるにつれてHisを除いて他のすべてのアミノ酸が増加しているのがみられた. 5) 魚肉懸濁液に, ぬかまたはこうじの粗酵素液を添加した実験で, 魚肉タンパク質はぬかとこうじの酵素の作用で分解することが認められた.このとき, NaClを添加しても分解が生じていた.また, 加熱ぬかまたはこうじの粗酵素液を添加したものでは分解がみられなかった. 以上のことから, ぬかおよびこうじの酵素がイワシぬか漬中の肉タンパク質の分解に関与し, これがテクスチャー変化に関連していることが推定された.